不動産投資の赤字を給与所得と損益通算する方法と注意点を解説
不動産投資を行うなかで、赤字が発生するケースは珍しくありません。
収支マイナスが出るとネガティブに捉えがちですが、損益通算を活用すれば、節税のチャンスが広がります。
損益通算とは、不動産所得の赤字を他の所得と相殺して課税所得を減らす仕組みです。
この制度を利用すれば、所得税や住民税の軽減やキャッシュフロー改善につながります。
この記事では、損益通算の仕組みや計算方法、適用できないケース、そして確定申告の手順について詳しく解説します。
不動産投資を成功させたい方は、ぜひ参考にしてください。
CONTENTS
不動産投資における損益通算とは
損益通算は、不動産所得の赤字を他の所得と相殺することで課税対象を減らし、税負担を軽減する制度です。
不動産投資において赤字が出た場合、この制度を活用することで節税効果を得られます。
以下では、不動産所得の赤字が給与所得と損益通算できる仕組みと、損益通算の目的について詳しく解説します。
不動産所得の赤字は給与所得と損益通算できる
不動産投資による赤字は、給与所得と相殺することが可能です。
家賃収入から必要経費(管理費、固定資産税、減価償却費など)を引いた結果、不動産所得がマイナスとなった場合が想定されます。
この赤字を給与所得から控除することで課税所得を減らせます。
たとえば、給与所得が500万円、不動産所得がマイナス50万円であれば、課税所得は450万円となり、所得税や住民税が軽減されます。
特に、日本の所得税は累進課税方式を採用していることが特徴です。
課税所得が減少することで、税率の適用範囲が下がり、税額の削減効果がより高まります。
この仕組みを活用することで、収支がマイナスの不動産投資でも節税効果を得られます。
そのため、投資のリスクを緩和する手段として利用することは少なくありません。
ただし、損益通算が適用されないケースもあり、制度の条件をしっかり確認しておきましょう。
損益通算の目的は節税効果を得ること
損益通算の最大の目的は、不動産所得の赤字を活用して節税効果を得ることです。
特に高所得者にとって効果的で、課税所得を大幅に減少させることが可能です。
これにより、所得税の軽減だけでなく、住民税も低く抑えられます。
たとえば、給与所得が多い方の場合、課税所得が高くなるほど税率が上がるため、損益通算による節税効果がより顕著になります。
ただし、節税を目的に不動産投資を行う場合は、赤字の額やキャッシュフローに注意する必要があります。
過度な赤字を抱えると、資金繰りに悪影響を及ぼす可能性があるためです。
節税効果を最大限に引き出すためには、確定申告を正確に行うことが重要です。
専門家のサポートを受けることで、より効果的な節税対策が可能になるでしょう。
損益通算の計算方法・順序
損益通算を行うためには、各所得の計算を正確に行い、赤字をどのように相殺するかを明確にする必要があります。
ここでは、本業の所得計算から不動産所得の計算方法、さらには損益通算のシミュレーションまでの手順をわかりやすく解説します。
本業の所得を計算する
損益通算を行う際、まずは本業の所得を計算しましょう。
本業の所得は給与所得以外に「利子所得」「配当所得」「雑所得」が対象です。
給与所得や事業所得は、課税所得の基盤となるため、正確な算出が求められます。
給与所得の場合、源泉徴収票を基に所得額を計算します。
- 総支給額の確認:給与の総支給額を確認
- 給与所得控除を適用:収入金額に応じた控除額を差し引く
- 課税所得を計算する:総支給額から給与所得控除を差し引いた金額が課税所得
この計算に基づき、課税所得を明確にすることが損益通算の第一歩です。
本業の所得計算は、課税所得の基盤となるため、正確な算出が求められます。
不動産所得を計算する
不動産所得は、以下のような計算式で求められます。
不動産所得 = 不動産収入 – 必要経費
まず、不動収入には、家賃収入や共益費などが含まれます。
年間の収入総額を正確に算出し、計算の基準としてください。
不動産所得の必要経費には、以下のような項目が該当します。
・減価償却費 ・修繕費 ・固定資産税 ・損害保険料 ・管理費用 ・銀行への返済利子 など |
たとえば、家賃収入が年間200万円で、必要経費が250万円の場合、不動産所得はマイナス50万円となります。
このマイナス額を本業の所得と損益通算することで、課税所得を減少させることが可能です。
なお、注意すべき点として、ローン返済に含まれる元本返済額は必要経費として計上できません。
これは、元本返済額が投資資産の購入費用の一部とみなされるためです。一方で、借入金の利息部分は必要経費として認められるため、ローン明細を確認し、正確な計上を心がけてください。
損益通算を最大限に活用するためには、これらの計算を正確に行い、赤字を有効に活用することが重要です。
不動産投資の損益通算をシミュレーション
損益通算の効果を具体的に理解するためには、シミュレーションが非常に有効です。
不動産所得が赤字となった場合、それを給与所得などと相殺することで、課税所得をどの程度削減できるかを計算できます。
シミュレーション条件
項目 | 金額 |
---|---|
給与所得 | 600万円 |
不動産所得 | ‐50万円 |
課税所得(損益通算後) | 550万円 |
計算方法
- 給与所得から不動産所得の赤字(-50万円)を損益通算で相殺
- 課税所得が600万円から550万円に減少
- 累進課税方式により、適用税率が低くなる可能性がある
この場合、課税所得が550万円に減少し、累進課税方式による税率適用で所得税と住民税の負担が軽減されます。
たとえば、課税所得の減少により、所得税率が20%から10%に下がる場合、税額の差は大きくなるでしょう。
不動産所得で損益通算できないケース
損益通算は、不動産所得の赤字を他の所得と相殺することで税負担を軽減できる便利な制度です。
しかし、すべての赤字が損益通算の対象になるわけではありません。
特定の条件下では損益通算が認められない場合があり、これらを事前に理解しておくことが重要です。ここでは、具体的に損益通算が適用されないケースを解説します。
土地取得にかかるローンの利子
土地を購入する際に発生するローンの利子は、損益通算の対象外とされています。
これは、土地自体が収益を直接生まない資産とみなされるためであり、税務上、必要経費として認められないのが主な理由です。
一方、建物部分にかかるローン利子は、家賃収入を得るために必要な費用とされ、損益通算の対象になります。
不動産投資を計画する際には、このルールを正しく理解することが重要です。
土地取得にかかるローン利子の扱い
項目 | 損益通算の対象 | 説明 |
---|---|---|
土地購入にかかる利子 | 対象外 | 土地は収益を直接生まないため |
建物部分にかかる利子 | 対象 | 家賃収入に関連するため認められる |
元本返済額 | 対象外 | 資産購入の一部とみなされるため |
設備取得費用 | 対象 | 建物の収益性を高めるため経費化可 |
たとえば、アパート一棟を購入した場合、建物部分のローン利子や設備取得費用(エアコンや給湯器などの設備)は必要経費として計上可能です。
ただし、土地にかかるローン利子や元本返済額は対象外となります。
また、戸建て住宅や区分所有マンションでは、共有名義での購入も少なくありません。
この場合、経費計上は所有者の持分割合に基づいて按分されます。
具体的には、共有名義で購入した物件の持分割合に応じてローン利子や減価償却費を計上する必要があります。
別荘等の貸し付けによる損失
別荘やレジャー目的の物件による損失は、損益通算の対象外とされます。
この制限は、別荘が主に個人的な利用を目的とした不動産とみなされるためです。
これらの不動産は、主に個人的な利用が目的とされ、事業的な不動産所得とみなされないためです。
別荘は生活に必要ではない資産とみなされ、損益通算の対象外となっています。
具体例として、以下が挙げられます。
- 別荘を一部の期間だけ貸し付けていた場合
- 個人の余暇やレジャー利用が主目的の場合
このような物件に投資する際は、収益性だけでなく税務上の制約も考慮しなければなりません。
完全な賃貸物件として運営すれば、収益物件として認められる可能性が高まります。
別荘などの特殊なケースでは、税理士など専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。
海外中古不動産の減価償却費
海外の中古不動産を購入した際に発生する減価償却費は、不動産投資における損益通算を活用するうえで重要な経費の一つです。
減価償却費とは、建物の取得価額を耐用年数に応じて経費として計上するもので、家賃収入から控除できます。
ただし、日本の税制では、国内不動産と同様に、土地部分は減価償却の対象外とされ、建物部分のみが適用対象となります。
さらに、海外物件の場合でも日本の法定基準に基づく耐用年数を用いる必要があり、中古物件では築年数に応じた残存耐用年数を考慮して計算することが求められます。
たとえば、建物取得価額が2,000万円、耐用年数が30年の場合、年間の減価償却費は約66万円となり、この金額は損益通算を通じて課税所得の減少に寄与します。
しかし、節税目的が強調された経費計上は税務調査の対象となる可能性があり、経費計上の際には適正性が重要です。
また、減価償却費を計上するには確定申告が必須です。家賃収入やその他の経費とともに申告することで、不動産投資の節税効果を最大化できます。
損益通算をするには確定申告が必須
損益通算で不動産投資の節税効果を得るためには、正確な確定申告が欠かせません。
不動産所得が赤字となり他の所得と相殺する場合、適切な手順で申告を行うことが重要です。
必要な書類の準備から、所得金額の計算、税金の算出まで、具体的な流れを解説します。
必要書類を準備する
確定申告を円滑に進めるためには、必要な書類を事前に揃えることが重要です。
不動産投資に関連する主な書類は以下のとおりです。
- 源泉徴収票(給与所得者の場合)
- 不動産収支明細書(家賃収入や管理費を記録したもの)
- 領収書や請求書(固定資産税、修繕費などの経費に関連するもの)
- ローン返済明細書(利息部分を経費計上するため)
- 減価償却費計算書(建物や設備の減価償却費を計算するため)
これらの書類を整理し、正確な記録を基に申告書を作成することで、不動産所得や課税所得を明確にし、損益通算を活用できます。
期限に間に合うよう、計画的に進めましょう。
所得金額を計算する
確定申告を円滑に進めるためには、必要な書類を事前に揃えることが重要です。
不動産投資に関連する不動産所得や給与所得など、各所得金額を正確に計算することは申告の基礎です。
不動産所得は次の計算式で求められます。
不動産所得 = 家賃収入 – 必要経費 |
また、必要経費には、以下の項目が含まれます。
- 固定資産税:資産保有にかかる税金
- 管理費:物件の維持管理に必要な費用
- 減価償却費:建物や設備の価値の経年劣化を計上
- ローン利息:借入金の利息部分
これらの経費を正確に記録し、計上することが重要です。
経費の適切な処理は、課税所得を減少させ、損益通算の活用による節税効果を高めることにつながります。
損益通算を行う
確定申告を円滑に進めるためには、必要な書類を事前に揃えることが重要です。
不動産投資に関連する損益通算では、不動産所得の赤字を給与所得や事業所得などと相殺することで、課税所得を減少させることができます。
たとえば、給与所得が600万円、不動産所得がマイナス50万円の場合、課税所得は550万円となり、所得税や住民税が軽減されます。
ただし、損益通算の対象外となる経費もあるため注意が必要です。
対象外の経費例は以下のとおりです。
- 土地取得費用(収益を直接生まない資産に該当)
- 元本返済額(資産購入の一部と見なされる)
これらを正確に把握し、適切に申告を行うことで、損益通算のメリットを最大限に活用できます。
さらに、税理士に相談することで、複雑な申告もスムーズに進められるでしょう。
税金を計算する
損益通算後の課税所得を基に、所得税と住民税を計算します。
日本の税制では累進課税方式を採用しているため、課税所得が減少すると適用される税率も低下します。
これにより、節税効果が得られる仕組みです。
たとえば、課税所得が50万円減少し、税率が20%と仮定した場合、所得税は10万円軽減されます。
同様に、住民税も税率10%で計算すると5万円軽減され、合計で15万円の節税が可能です。
節税効果を最大化するには、損益通算の適用条件を理解し、正確に課税所得を計算することが重要です。
税理士に相談することで、さらに効率的な節税対策が可能になるでしょう。
確定申告書を提出する
最終的に、必要書類を添えて確定申告書を作成し、税務署に提出します。
提出方法は以下のとおりです。
- 税務署窓口への持参:書類一式を直接提出
- 郵送:確定申告期間内に郵送で提出
- 電子申告(e-Tax):オンラインで申告する方法
電子申告を利用することで、控除額が増える場合もあるため、積極的に活用しましょう。
不動産所得以外で損益できる所得
不動産所得以外にも損益通算の対象となる所得がいくつか存在します。
損益通算そのものについて、より理解を深めたい人は参考にしてみてください。
それぞれの特徴を理解し、適切に損益通算を行うことで節税を最大化できます。
譲渡所得
譲渡所得は、不動産や株式、宝石、ゴルフ会員権などの資産を売却した際に得られる所得を指します。
譲渡所得は、以下の計算式で求められます。
譲渡所得 = 譲渡収入 – (取得費 + 譲渡費用) |
たとえば、土地や建物を売却した場合、売却価格から購入価格や仲介手数料などを差し引いて計算します。
一方で、資産売却による損失、つまり譲渡損失が発生した場合、その損失は損益通算の対象となる場合と、ならない場合があります。
不動産における一定条件を満たした譲渡損失は損益通算可能ですが、株式や宝石、ゴルフ会員権に関する譲渡損失は、通常損益通算の対象外です。
また、譲渡所得には「分離課税」が適用され、通常の所得税率とは別の税率が適用されます。
このため、すべての譲渡所得が損益通算できるわけではありませんが、一部の特例で譲渡損失を活用できるケースがあります。
これらの資産を売却する際には、税務上の取り扱いを十分に理解し、適切に計算を行うことが重要です。
事業所得
事業所得は、自営業やフリーランスとして得た収入から必要経費を差し引いた所得です。
この所得は、不動産所得や譲渡所得と損益通算が可能で、収入が不安定な場合に節税効果を高める手段となります。
特に、不動産投資による赤字を事業所得と相殺することで、課税所得を減少させ、所得税や住民税を軽減できるのが特徴です。
たとえば、事業の売上が500万円、必要経費が400万円の場合、100万円が事業所得です。
この所得を、不動産投資の赤字50万円と相殺すれば、課税所得は50万円に減少します。
また、事業所得は多様な収入源を含むことが可能で、個人事業主としての事業だけでなく、農業や漁業からの収入も含まれる場合があります。
一方で、サラリーマンが副業として得た収入が、例えばアフィリエイトや物販収入などの場合、これが雑所得として扱われることもあります。
雑所得は損益通算の対象外であるため、事業所得との区別が重要です。
多様な収入源を持つ場合は、所得区分を明確にし、適切に損益通算を活用することが、節税効果を最大化するポイントとなります。
山林所得
山林所得は、山林の伐採や立木の譲渡によって得られる所得です。
山林は長期保有されることが一般的であり、計算には特例が設けられています。
所得金額の計算式は以下のとおりです。
山林所得 = 譲渡収入 – (必要経費 + 特別控除額) |
山林所得は、伐採後5年間にわたって所得税が分割課税される特例が適用されます。
また、山林所得は不動産所得や事業所得と損益通算の対象となるため、節税効果を高める手段として有効です。
ただし、損益通算を行う際は、所得の優先順位を考慮することが重要です。
まずは給与所得や不動産所得、事業所得などから差し引きます。
それでも赤字が残る場合は、譲渡所得や一時所得、退職所得の順番で差し引かれる流れです。
山林所得は計算が複雑であるため、税理士のサポートを受けることをおすすめします。
特に、適用可能な特例や控除額を活用することで、税負担を最小限に抑えることが可能です。
まとめ
不動産投資における損益通算は、不動産所得の赤字を他の所得と相殺することで節税効果を高める有効な手段です。
損益通算が可能な所得を正しく理解し、適切に活用することで、不動産投資のリスクを軽減しつつキャッシュフローを改善できます。
ただし、損益通算には制限があり、不動産所得であっても適用されないケースがあるため注意が必要です。
また、損益通算を効果的に活用するためには、確定申告を正確に行うことが重要です。
家賃収入や必要経費を正確に計算し、不動産所得や課税所得を明確にすることが求められます。
さらに、譲渡損失や一部の所得区分についても最新の税制を把握し、節税計画を立てることが不可欠です。
損益通算を最大限に活かすには、投資計画を見直し、税制の特例や控除を適切に利用することがポイントです。
不動産投資を成功させるために、税理士などの専門家に相談することも視野に入れ、より良い税務戦略を構築してください。
不動産投資の利益を最大化しつつ、リスクを最小限に抑えるための損益通算を上手に活用しましょう。